
報告感想
(ビービ)
自分事で恐縮ですが、これまで本格的な泊まり山行は未経験であり、やまづと入会当所は当面泊まり企画に臨むつもりはありませんでした。
主に自分の気質(せっかちだったりマイペースだったり神経質だったり)の問題で、きっと迷惑をかけるし、自分も消耗するだろうと。
しかし、沢の魅力というのは想像以上でした。
入会以降何度か沢を経験するうちに泊まり沢への関心が芽生え、気付けば今年中に一度は経験したいと思うようになりました。
とはいえ、それでも1泊程度の軽い企画を想定していましたが、色々と都合が付かずにいたある日、今回の4泊5日東北沢の話が舞い込んできました。
流石に少々悩みはしましたが、貴重な機会であることは間違いなく、結局なるようになれの精神で飛び込ませていただきました。
本山行は元々、和賀川を経て大鷲倉沢を遡行し和賀岳へ至る前半と、北西へ下降後にマンダノ沢から上天狗沢を経て羽後朝日岳へ至る後半の構成でしたが、結果的に前半のみで切り上げることとなります。
荷物重量がシビアだったことや、増水による険しい高巻きの頻発などが要因だと思います。
個人的なハイライトは以下の通りです。
– 焚火と星空(初日)
– 和賀川泳ぎ(二日目)
– 大鷲倉沢の巨岩帯(三日目)
– 大鷲倉沢の源流部(四日目)
– 和賀岳詰上がり(四日目)
それでは、時系列順に振り返ってまいります。
(コトブー)
軍刀利沢の反省会で東北の沢の話題になり「日本登山大系1北海道・東北の山」をポチる
ページ223「和賀山塊 秋田クライマーズクラブ」を開く
秋田、岩手両県の境をなす奥羽山脈の中央部
村人の山岳信仰やマタギの狩猟の舞台
知られざる沢登りのフィールド
豊富で貴重な高山植物の宝庫
密かな人気
地質上は第三紀層
山容の遠望はやさしい印象
近づけば急峻なルンゼや岩尾根、荒々しさに気付かされる
谷のスケール、困難さは東京近郊の沢とは比較にならず
日帰り遡行など望むべくもない
高度は低いとはいえ、遅くまで残る雪渓など、自然条件は三〇〇〇m級
スケールが大きいだけに雨天時の鉄砲水や増水は怖いくらい
会にとって特別なこの東北の沢を2025年お盆に親分が計画してくれる
コースは、北上線ほっとゆだ駅=高下登山口~和賀渡渉点~和賀川本流沢下降~大鷲倉沢(沢登り)~和賀岳~北方向へ尾根を辿り、1412m~1284m~治作峠付近からマンダノ沢に下降~上天狗沢遡行~羽後朝日岳~部名垂沢下降~夏瀬温泉=角館
沢をやるために入会した自分は気合い満々、コンディションを整えて臨ませてもらうことにした
PTメンバーは親分(L)、ガンチ(SL)、期待の新人ビービ、自分の4人
<初日>
(ビービ)
工事の都合で出発地点が予定より大分手前となり、終始林道・山道を歩きました。
ザック容量やパッキング下手のためあまり共同装備を受け取れなかったものの、普段とは桁違いの荷物重量に面食らいます。
幕営地へ到着すると、流枝木を集めて焚火に備えました。これまた初めての体験です。
焚火に関しては、精緻な恰好を組むのではなく、ざっくり大胆に並べるワイルドな様式でした。
その晩は、満天の星空の下で火を育て眺める、素晴らしいひとときでした。
(コトブー)
8月13日(水)盛岡で全員合流、北上線「ほっとゆだ」駅でガンチが呼んでくれたタクシーに乗車、高下(こうげ)登山口手前の車止めから歩く(11:30)
おっと、その前に荷物の分配
ピーピーピー
ピピピピピピピピー
ピーポペピョ 熊を避けてるのか呼んでるのか
笛を吹き吹き、汗を拭き拭き、木陰を踏み踏み歩く
登山口で地図を見て登り始め、等高線よりずっときつい登り勾配に文句タラタラ(13:30)
そうえいば「地図は間違っていることがよくあります」なんて、偉い地図学の先生が言ってた
不完全な人間が作った不完全な地図って、一体何を見たらいいんだよ
「地図読みは地形を読むことだ」後日、地図読みのT師匠から聞き、納得
「和賀川横断点または大鷲倉沢出合いで初日幕営」計画
白い岩、エメラルドグリーンの水、可憐な花々、広々した河原が両手を広げて待っていた
和賀渡渉点を今夜の宿に決定!!(16:30)
大きな石を取り除いて寝床を整えタープを張る
流木を集めて焚き火を焚く
「乾杯しようよ」という親分の一声で乾杯する(18:30)
AIによると「焚き火は五感に働きかけリラックス効果やコミュニケーション促進効果が期待できる活動」らしいけど、沢では「濡れた衣類を乾かしたり体を温めたり」と案外実用的
ところで、今回の共同食は夜4回・朝4回、ガンチシェフと自分で各2回ずつの担当
飯豊で不評だった「お湯を入れるだけの食事」から脱却しようと真面目にメニューを考案する
4回×4人=16食分
重量は無視できない課題、味の変化も付けたい
でも、結果として濃い味付けとボリュームが一番大事!だってことを実感
なんでもやってみるもんですな


<二日目>
(ビービ)
和賀川から大鷲倉沢までの緩やかな沢下りが大半で、終盤に大鷲倉沢を少々遡行しました。
泳ぎ必須箇所はほぼありませんが、泳ぎ大好き人間の自分は片っ端から水に飛び込みます。
ザックの大きさゆえ、前方へ泳ごうとするとザックで頭が突かれるのですが、色々試したところ背面平泳ぎ?が有効でした。
水流と同方向へ進むため、上手く流れに乗れればそれで良いのです。
水も澄んだ青で美しく、和賀川ではとにかく夢中で沢と戯れていました。
大鷲倉沢の序盤ではしばしば程良く難しい滝が連続し、刺激的な登攀を楽しめました。
とはいえ時間も押しており、あまり距離を稼げぬうちに適当なスペースで幕営。
この後、まさかあんなことになろうとは…。
(コトブー)
8月14日(木)贅沢に朝から焚き火でのんびりスタート(8:00)
よく「てつかずのしぜん」なんて言うけど、まさにそんな感じの和賀川を下っていく
ああ、身も心も浄化されていくよ
下りの泳ぎは水が運んでくれて良いね
親分、ヘルメットがザックに押しあげられて前が見えなくなってるよ!
えっ?穴から見えてるって!?笑
元気一杯、元水泳部のビービは泳ぎが面白くて、滝が嬉しくてひたすら水線を行く
あんまり早く行きすぎるなよー、見えなくなっちまうよ
風景がでっかすぎて人間がちっぽけに見えるな
「もしここにずっと一人で暮らしてたら、人間に会ったらさぞ嬉しいだろうな」なんて考えた
同じ地球の皮の上に住んでる者同士、平和に仲良くいきたいよね
懸垂下降は親分、ビービ、自分、ガンチの順で何回やったっけ?
「下の手を絶対離すな」
ビービが念仏みたいに唱えながら降りていく、えらいね
懸垂下降といえば「登り返し」ってのも練習・習得したいんだよな
本には「和賀渡渉点から下部は上部に比しゴルジュも発達し、意外と悪い下降2-3時間で出合いに立つ」なんて書いてある
嘘でしょう?
我々は6時間くらいかかってますけど?(14:00)
ヤマレコの記録によると、この日の野営は和賀川の渡渉点から4.7km歩いた地点
予定していた上流部までは到達できず
親分によると、大鷲倉沢に入って2つ滝を巻いたあたり(16:00)
タープの宿、準備ができて乾杯(17:30)
着替がいらないのは良いけど、腹回りくらいは焚き火で乾かしておきたいね(19:00)




<三日目>
(ビービ)
前日深夜時点で雨音はしていましたが、早朝3時頃?に集中豪雨に見舞われます。
沢は濁流となって氾濫し、幕営地は浸水、一同山側へ緊急避難しました。
日が出てくる頃にはある程度落ち着いてくるのですが、それまでは非常に焦燥していました。
10時頃に無事出発すると、早速素敵な巨岩帯が待ち受けていました。
ロープ無しで登れる程度の巨岩の連続を、水線真っ直ぐにひたすら登っていきます。
時間をかけて難しい登攀を達成するのも良いですが、自分にとっては比較的安全な登攀を多数突破していくのも非常に刺激的です。
また、全体を通して頻発する、奥多摩では考えられないほど大掛かりな高巻きも特徴的でした。
木の根はもちろん、丈夫さを確かめつつ掴める草も利用し、道なき道を切り開きます。懸垂下降も頻発します。
滝より手前から、滝が見えぬまま大きく迂回するため、落ち口の位置感をよく意識することが重要です。
この日の大反省点が中盤の15m大滝で、先行した自分だけ30m程度高巻いてしまい、肉体的にも精神的にも著しく消耗しました。
(コトブー)
8月15日(金)寝ていると雨がタープを打ち始め、音がやや強くなり時計を見る(1:30)
止む気配なく親分が「コトブー、寝ている横の水流に変化が生じたら教えて」という
水量が増えてきたので避難開始(4:00)
脇の高台に協力して全ての荷物を移動
荷物のそばで4人小さく固まり、ブルーシートとタープをかぶってしのぐ(4:30)
寝ていた砂地には水が流れ込み
野営地選定の重要性、避難路・避難先を考えておくことの重要性を体感した
決断、行動のタイミングは経験が必要かもしれない
初心者の自分は、早めを心がけたいと思った
雨が止み、朝ご飯を食べ始める(6:00)
青空が見え始め、気分が上がってくる(8:30)
水が引くのを待って、出発する(10:00)
ビービはグングン登って、スイスイ泳いで、スルスル降りていく
次々訪れる急な斜面の高巻きは親分がリード
ガンチがそれをフォロー
薮漕ぎも高巻きも時間はかかるけど
これだけ繰り返すと普通のことになってくるね
「習うより慣れろ」っていうよね
暗くなってきたのでビバークに取り掛かる(19:00)
約9時間の山行時間で進んだ距離は3.2km
計画ではマンダノ泊、現実は大鷲倉沢の中
いやぁ、よくがんばりました!
今日はテントで寝るよ、あったかいの嬉しいなー
ビービが欲しがるから今夜も焚き火でリラックス
ここで正式に「治作峠へは行かず、和賀岳に上がってから高下登山口まで戻る」ことに決定した
みんな残念、ビービは特に残念
でも、ガンチシェフのガッツリディナーを「うめぇー!うんめぇー!」なんて言いながら、
ムシャムシャ食べて気持ち変わったね
親分、満足して寝ちゃったよ


<四日目>
(ビービ)
カンカン照りの大快晴に恵まれたこの日は、すぐに源流部へ到達します。
広大な青空の下、目の前には源流感溢れる浅い沢が続き、すぐ側には和賀岳へ続く草原様の稜線が伸びる、幻想的な光景です。
(コトブー)
8月16日(土)おはよう、テントでもあったかくないじゃん!
シュラフ無しのシュラフカバーだけだから、軽くてコンパクトだけど
薄いダウンジャケットは要るよね
ガンチシェフのガッツリモーニング食べて元気をチャージしてスタートだよ(9:30)
モーニング モーニング 君の朝だよー
モーニング モーニング 君の朝だよー
なんて歌いたくなるような青い空が、緑のV字の上に見えてきたよー(10:00)
親分が「東北らしい景色になってきたな」って言ってたよー
2日目夜半の雨が遠い昔のことに感じるね
「雨降って地固まる」なんてね
ヤァヤァヤァヤァ、あれに見えるはスノーブリッジ!(11:00)
「中、行ける?」「やめといた方がいいな」
でもさ、上を歩くのも怖いよね
「薄いところは歩くなよ」「端から1mくらいのところを歩けよ」親分が後ろから教えてくれる
歩き切ってホッとすると、可憐な花々が心を和ませてくれる
上流部から源流の巻きは難しい上に暑くて大変だった
あげるのが大変で、親分のザックがドロドロになった
無数の虫がまとわりつく中、親分がみんなを力強く辛抱強く引き上げてくれた
水に浸ると生き返るね、水ってほんと有り難いね
その水が枯れてきて、後ろを振り返ると谷筋の向こうに下界が見える(14:00)
最後、先に着いたビービがロープを引っ張ってくれて、みんなで無事山頂に着いた(16:40)
標高1440mの和賀岳、360度の視界を4人で貸切りだ
装備を解除して記念撮影(17:00)
みんな頑張ったよね!
振り返りつつ登山道を下り始める
和賀川渡渉点に戻り、沢靴に履き替えて渡渉(20:00)
初日のビバークポイントにテントを張る
今日の山行時間は8時間半、距離は7.4km
冒険の終わりが近づいて、寂しいね



<五日目>
(コトブー)
8月17日(日)ガンチが元気なくて心配する
ビービが元気いっぱいなので安心する
朝ご飯を作ってみんなで食べる
ガンチも少し食べてホッとする(6:00)
「行きに乗ったタクシーの運転手さん、来てくれるかな」
「どこで電波入るかな」
怪我なく無事に帰れるように祈って出発(8:00)
高下登山口までは全員離れないようにして歩く
「このブナ立派だね」
「荷物、下ろすと背負うの大変なんで、中腰で休憩するのが楽なんです」
日を追うごとに背負う荷物を増やし逞しくなっていくビービが眩しい!
登山口について休憩、着替え、行動食を口にする(11:00)
まもなく、ビービはタクシーを電話で呼ぶために先に出発
しんどそうなガンチを見かねて、親分がいくつか荷物を引き受ける
車止めまでの約4km、歩けども歩けども辿りつかず
狐が化かしているだろうかと疑いたくなる
車止めに着くと、ビービの荷物が置いてあり
メロスのように走るビービの姿を想像する
メロスよりも爽やかな笑顔でビービが帰ってくる
やがてタクシーの音が聞こえて歓喜の声を上げる
ほっとゆだ駅に戻る
発車まで時間がないので駅の隣の温泉で「さっとゆ」を浴びて北上線に乗る
お盆最終日、北上駅から「立ち席乗車券」で東京に戻る
スマホでジャンプ+を読みながら一人余韻に浸る
衛星の数、多かったなー 流れ星、見えたなー
熊よけスプレー、重かったなー 使わなくて、よかったなー
初日に二組、3人と 最終日に1人と会っただけだったなー
お花畑、どこまでも続いてたなー 綺麗だったなー
ビービのこれから、めちゃくちゃ楽しみだなー
ガンチはどこまでも優しくて、無理を承知で頑張るんだなー
親分はやっぱりすごいなー
このメンバーで行けて面白かったなー
次は夏瀬温泉から沢を登って奥羽朝日岳に行ってみたいなー
誰か行ってくれるかな?
なんて考えてたら、東京駅に着いちゃった
新幹線は早いね






おわり。